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交通事故被害による「びまん性軸索損傷」の後遺障害等級と慰謝料相場2024.06.23

大阪弁護士会所属 登録番号47601
清風高等学校卒業/大阪市立大学卒業/大阪市役所入庁(平成18年まで勤務)/京都大学法科大学院卒業/古山綜合法律事務所 代表弁護士
「自保ジャーナル」No. 2157号(令和6年5月9日発行)掲載 / 朝日放送「キャスト」/弁護士の顔が見える中小企業法律相談ガイド(弁護士協同組合・共著)/滝川中学校 講演「インターネットトラブルにあわないために-トラブル事例を通じて-」
大阪市職員、大阪・京都の法律事務所の勤務経験を活かし、法律サービスの提供を受ける側に立った分かりやすい言葉で説明、丁寧なサポートで、年間100件以上の問題解決をおこなっています。
また損害保険会社元代理人弁護士の知識とノウハウをもって、交通事故被害者の救済に取り組んでいます。

 

0. 交通事故被害による「びまん性軸索損傷の後遺症」

びまん性軸索損傷(DAI)は、交通事故などの強い外力が脳に加わった際に発生する脳の損傷です。
脳内に広範囲にわたって存在する神経線維が切断されることによって引き起こされ、重大な後遺症につながることが少なくありません。

この記事では、びまん性軸索損傷の原因や症状、適切な治療法、さらに後遺障害等級や後遺障害慰謝料についてくわしく解説し、この損傷の理解を深めるとともに、交通事故被害者とそのご家族さまが適切な対処法を取るための情報をお伝えします。

1.びまん性軸索損傷とは

びまん性軸索損傷(Diffuse Axonal Injury, DAI)は、交通事故や重度の頭部外傷などにより脳の広範な部分にわたって軸索が損傷する状態を指します。

この損傷は非常に深刻であり、長期間にわたる治療とリハビリが必要になることが多いです。
びまん性軸索損傷は脳内の軸索という神経線維が複数の箇所で切断されることにより生じます。

1-1. びまん性軸索損傷の原因

頭部の急激な回転運動や強い衝撃によって起こりやすく、その結果として意識障害や運動機能の低下など、多岐にわたる症状があらわれます。

1-2. びまん性軸索損傷の症状と特徴

頭部外傷ではCT検査がおこなわれることが一般的ですが、急性硬膜下血腫や脳挫傷のような局所性脳損傷が発見されづらいという特徴があります。

事故直後に意識障害(意識消失)が続くような場合には、より精密なMRI検査がおこなわれることがあります。
この際に、脳の損傷が発見されることがあります。
意識昏睡状態から回復したあとも遷延性意識障害(植物状態)や高次脳機能障害(脳の損傷)といった後遺障害が残る可能性があります。

びまん性軸索損傷により認知機能や感情の制御が困難になることがあります。
これは、神経線維が広範囲に損傷されると、脳全体の統合機能が失われるためです。
具体例としては、認知機能障害(記憶力、集中力の低下など)、行動障害(注意力の散漫など)、感情のコントロール(衝動的・怒りやすいなど)ができなくなるといったことが日常生活で観察されます。

これにより、患者の日常生活や社会生活に大きな支障が出ることがよく見られます。

1-3. びまん性軸索損傷の治療法

広範囲にわたる、ミクロレベルでの神経線維の断裂であるため、現在の医学では、びまん性軸索損傷を回復させる有効な治療法はありません。

びまん性軸索損傷の治療は、損傷の程度に応じて、頭蓋骨内の脳圧を下げるための薬物療法や必要に応じた外科的治療により全身の状態の安定をはかりつつ、意識状態が回復した段階で理学療法士や作業療法士によるリハビリテーションをおこなう組み合わせが多いです。

2. びまん性軸索損傷の後遺障害等級と後遺障害慰謝料の相場

びまん性軸索損傷により認定される後遺障害等級や後遺障害慰謝料の相場について解説します。

特に、後遺障害等級の認定を受けるためのポイントや慰謝料の具体的な相場について詳細に述べていきます。
等級が高く認定されればされるほど、被害者が受け取る慰謝料が高額になりますが、適切な等級が認定されないと、十分な補償が受けられない可能性があります。

2-1.認定される後遺障害等級

交通事故による「びまん性軸索損傷」で認定される可能性がある後遺障害等級は次の通りです。

参照 びまん性軸索損傷の等級と後遺障害慰謝料(弁護士基準)

後遺障害等級 後遺障害慰謝料
(弁護士基準)
後遺障害認定基準
1級1号 2800万円 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
2級1号 2370万円 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
3級3号 1990万円 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
5級2号 1400万円 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
7級4号 1000万円 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
9級10号 690万円 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当程度に制限されるもの

2-1-1.認定を受けるためのポイント

びまん性軸索損傷の後遺障害等級を認定してもらうためには、いくつかの重要なポイントがあります。

・MRI検査(MRI画像による立証)

びまん性軸索損傷の後遺障害等級を認定されるためには、MRI検査が必要です。

CT検査では気づけない細かな脳の損傷も、MRI検査では、びまん性軸索損傷の存在を画像により認識できる可能性があり、診断と症状固定後の等級認定のための重要な証拠となります。

また、びまん性軸索損傷は、外傷性くも膜下出血、脳室内出血、白質内の微小出血をともなうことがあります。

なお、びまん性軸索損傷は受傷から1か月以上経過した慢性期に脳室の拡大や脳の萎縮が認められることがあり、MRI検索による画像所見は、後遺障害等級認定手続きにおいて大切な資料となります。

・意識障害、記憶障害があるかの確認

交通事故直後の急性期において、意識障害(意識消失)が6時間以上続きます。
脳幹損傷をともなうような重症の場合、意識昏睡状態は長時間(24時間以上)にわたり、死亡率も高くなります。

意識障害の存在は、びまん性軸索損傷の深刻さが現れており、記憶障害(健忘:記憶を思い出せない)が長く続くことがあります。

昏睡状態から意識が回復したとしても、脳へのダメージが大きく、脳外傷による高次脳機能障害や、小脳の損傷による言葉を話すのがぎこちなくなる(失調性構音障害)などの精神症状や神経症状が発生することがあります。

・適切な等級認定

適切な等級認定を受けることが重要です。
なぜなら、認定等級により慰謝料は大きく異なるため、今後の生活にとって必要となる経済的な補償を受け取ることができるかの分かれ目となります。

不適切な等級で認定されてしまうと、受け取ることができる補償が少なくなる可能性があります。

例えば、同じびまん性軸索損傷でも、高次脳機能障害や遷延性意識障害に該当するかどうかで等級が変わります。

医師は後遺障害等級認定手続きのプロではありません。
後遺障害等級の認定基準や、必要な資料と検査を把握し理解しているのは弁護士です。

当事務所では、ご家族さまからの相談も受け付けております。
初回無料相談にて、適切な賠償を受けるための具体的なアドバイスをさせて頂きます。
ぜひお気軽にお問い合わせください。

・弁護士への相談

びまん性軸索損傷の後遺障害等級認定を受けるためには、弁護士への相談が有効です。

後遺障害等級認定において、より高い等級認定が受けられるか、必要な検査が正しくなされているか、保険会社からの提示賠償額は妥当かのチェックを受けることができます。
また面倒な等級認定手続きの代行も任せることができます。
例えば、高次脳機能障害に当たる場合には、日常生活状況報告書を提出するなど、必要な書類の作成のサポートを受けることも可能です。

重度の後遺障害の場合、加害者側の任意保険会社との交渉が難航して裁判による解決へと発展することがあります。
こうした場合にも、訴訟代行も任せられるので手続きや精神的な負担を大きく軽減する事が可能です。

なお、自動車保険などに「弁護士費用特約」が付いているケースもあり、相談料や弁護士費用(一般的には上限300万円程度)を支払ってもらうことができるため、ご家族やご自身が加入されている保険契約を今一度確認されると良いでしょう。

2-2.後遺障害慰謝料の相場

びまん性軸索損傷(DAI)の後遺障害慰謝料の相場は、後遺障害等級によって大きく異なります。

 参照 2-1.認定される後遺障害等級 「参照 びまん性軸索損傷の等級と後遺障害慰謝料(弁護士基準)」

後遺障害等級がより重度であれば、被害者の生活や仕事に与える影響が大きくなるため、慰謝料も相応に増える傾向があります。
これは、被害者が日常生活で直面する困難や制約が非常に大きくなるからです。

たとえば、1級の後遺障害が認定される場合、慰謝料の相場は数千万円に達することがあります。
一方で、より軽度な等級、例えば9級では、1000万円未満にとどまることもあります。

3. びまん性軸索損傷の診断

びまん性軸索損傷は、交通事故などの強い衝撃により脳の軸索部分が広範囲に損傷する病態です。

この損傷はしばしば見過ごされやすく、正確な診断と適切な治療が求められます。
びまん性軸索損傷の診断には、専門的な検査と細心の注意が必要です。
医師がCTやMRIといった画像診断技術を駆使して、脳の微細な変化を確認することで診断をおこないます。

3-1. びまん性軸索損傷の診断方法

びまん性軸索損傷の診断は、具体的には、MRIなどの画像診断を用いておこないます。

びまん性軸索損傷は脳の微細な部分に損傷が生じるため、詳細な画像診断が必要です。
特にMRIはCTで映らないほどの微細な損傷も確認できるため、検査方法として有効です。

MRI検査のT2強調画像やFLAIR画像などにより損傷や異常を詳細に映し出すことができます。

4.びまん性軸索損傷と高次脳機能障害、遷延性意識障害

びまん性軸索損傷は交通事故などで発生しやすく、高次脳機能障害や遷延性意識障害といった深刻な後遺症を引き起こすことがあります。

4-1.高次脳機能障害とは

高次脳機能障害とは、脳の損傷により記憶、注意、集中力、計画力などの知的能力が低下する障害です。

この障害は、脳を強く揺さぶられたり、直接的な打撃を受けた結果、脳内に生じた損傷や出血が生じ、脳にダメージを与えることで発症します。

頭部外傷は「頭蓋骨骨折」「局所性脳損傷」「びまん性脳損傷」に分類されます。
(「びまん性脳損傷」の中に「脳震とう」と「びまん性軸索損傷」があります。)
高次脳機能障害の一般的な原因としては、びまん性軸索損傷のほか、脳挫傷、硬膜外血腫、硬膜下血腫、脳出血が挙げられます。

高次脳機能障害の具体的な症状としては、頭部を強く打った後に著しい記憶力の低下が見られる場合や、日常生活において様々な支障が生じる場合があります。

例えば、名前や出来事をすぐに忘れたり、怒りっぽく自己中心的になったり(人格変化)、集中力が続かず、仕事や学業に大きな影響を及ぼすことがあります。
これらの症状は日常生活における基本的な行動を制限し、患者本人だけでなく、その家族や周囲の人にも多大な影響を与えます。

4-2.高次脳機能障害で認定される等級

高次脳機能障害において認定される等級は次の通りです。

参照 高次脳機能障害の等級と後遺障害慰謝料(弁護士基準)
自賠法施行令別表1・別表2

後遺障害等級 後遺障害慰謝料
(弁護士基準)
後遺障害認定基準
1級1号(要介護) 2800万円 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
2級1号(要介護) 2370万円 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
3級3号 1990万円 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
5級2号 1400万円 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
7級4号 1000万円 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
9級10号 690万円 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当程度に制限されるもの

重度の高次脳機能障害では、日常生活に支障をきたすほどの影響があるため、1級や2級といった高い等級に認定されることがあります。

例えば、1級に認定される場合は、ほとんどの身の回りのことを他人の助けなしには行えない状態です。
一方、症状が軽度であっても職業生活に著しい影響を与える場合や一部の活動に重大な制限がある場合には、3級や5級といった等級に認定されることがあります。

これらの等級認定が確実に行われることが、その後の生活において適切な補償を得るために非常に重要です。

特に、自賠責保険の後遺障害等級に応じた賠償金額設定は等級で大きく異なるため、正確な認定を追求することが不可欠です。
弁護士や専門医と連携して、必要な検査や診断書の収集、後遺障害等級認定手続きや損害賠償請求をおこなうことで、適切な等級認定と補償を勝ち取ることが大切です。

4-3.遷延性意識障害とは

遷延性意識障害とは、長期間にわたって持続する植物状態を指します。

・自力で移動ができない
・自力で食事をとることができない
・排尿、排便のコントロールができない
・意味のある発語ができない
・簡単な指示には対応できるが、それ以上の意思疎通はできない
・眼球はかろうじて物を追っても認識はできない

 

これは、一度発症すると、患者は長期間にわたり意識を回復できない状態が続くため、通常の生活を送ることが極めて困難になります。
この障害は交通事故による頭部外傷などが主な原因となり、数ヶ月から数年にわたり意識を取り戻せないケースが確認されています。

遷延性意識障害は非常に重篤であり、患者本人だけでなく、家族や介護者にとっても大きな負担を強いることになります。
日常生活の多くの場面で介護が必要となり、家族の生活も大きく制約されるため、精神的・肉体的に大変な試練を伴います。

そのため、患者とその家族が安心して生活を続けられるように、適切な支援と介護体制を整えるために、法律事務所や専門医の協力を得て、適切な賠償金の支払いを受けることが重要になります。

4-4.遷延性意識障害で認定される等級

遷延性意識障害で認定される等級は非常に高いものが適用されることがあります。

参照 遷延性意識障害の等級と後遺障害慰謝料(弁護士基準)

後遺障害等級 後遺障害慰謝料
(弁護士基準)
後遺障害認定基準
1級1号(要介護) 2800万円 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの

その理由は、遷延性意識障害は長期間にわたる意識障害や機能障害を伴い、日常生活や社会復帰に大きな影響を及ぼすからです。
例えば寝たきりの状態が続き、自己の基本的な日常生活動作も他人の助けが必要な場合、非常に高い等級が認定されることがあります。

遷延性意識障害による後遺障害等級は、患者や家族の生活に直接的に影響を及ぼすため、正確な診断と適切な認定が重要です。
適切な認定を受けるためには、専門医による診断や詳細な医療記録の提出が不可欠となります。

また、後遺障害等級の認定は賠償金や慰謝料の計算に大きく影響するため、法律事務所や弁護士に相談することも重要です。
最終的には、適切な後遺障害等級の認定を受けることで、被害者やそのご家族さまが適切な補償を受けられるようになります。

5.まとめ

本記事では、交通事故による「びまん性軸索損傷」の後遺症について、その原因や症状、治療法、後遺障害等級と慰謝料の相場、また関連する高次脳機能障害や遷延性意識障害についてくわしく解説しました。

びまん性軸索損傷や関連する後遺症に関する疑問や不安がある場合、ご自身だけで判断をせず、適切な専門家と相談することを強くお勧めします。
弁護士や医師の助言を得ることで、治療と今後の補償について最適な対策をとることができます。

古山綜合法律事務所では、交通事故被害による脳に損傷を受けたことによる後遺障害の問題、「びまん性軸索損傷」「高次脳機能障害」「遷延性意識障害」「四肢麻痺」などについてのサポートをおこなっています。
損害保険会社側の元代理人弁護士が在籍しており、交通事故問題の解決に自信があります。
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